2016年1月19日火曜日

蝋燭







〝私たちは恐れない〟


叫び出した声は、どこへ届く。


あの時、近くのビルで働いていた人は「記録のためだ」と言う。


あの時、現場にはいなかったスマランの女子大生は「ここはもう安全だと友達に知らせたい」と言う。


SNSを通してどちらも発信される。


その時、〝私たちは恐れない〟と添えるのだろうか。


その子にどうして安全だと言い切れるの、と尋ねてみた。


少し考えて、こう言った。


「そんなこと考えてもみなかった」


蝋燭と花びらの甘い匂いだけが残った。



2016年1月10日日曜日

背中






年が明ける1日前、海上で船に揺られていた。

南島スラウェシ・ワカトビ国立公園のホガ島へ向かうためだ。

各島を結ぶ定期船は電話で確認したにもかかわらず、休航。

通常料金の6倍以上の値段でなんとか出港した地元漁師の二人乗り木船は、ところどころ
空いた隙間から海水が流れ込み、心中穏やかではなかった。

日本の12月では考えられない、インドネシアの強い日差し。

ブトン島北東のカマルから、ワンギワンギ島まで、約5時間。

炎天下の海上で、トラブル続きだった半日を振り返り、来年の行く末が思いやられた。

ともあれ、久しぶりに「ここはインドネシア」だと思い知らせてくれた、

この国の不変性にホッと胸をなでおろしもした。


ワンギワンギ島からホガ島に向かうスピードボートの船長は3児の父。

手伝いで同乗した14歳の息子は口数少ないながらも、親父の背中を見て育ったことがよく分かる。

船に乗り込み、帽子を被り直したら、後ろ姿が重なった。